噛み合わせ治療の最終目標は、正しい噛み合わせ位置で、左右の奥歯をバランスよく接触できるようにすることです。
-
術前:噛み合わせのバランスが悪い状態
-
術後:咬合調整により、左右のバランスが取れた状態
-
初診時の顎関節のCT画像
初診時:関節上部の輪郭と、関節窩(間接のくぼみ)の輪郭が不鮮明なため、骨の吸収を認められる
-
治療開始後に撮影したCT画像
バイトプレートによる治療開始後:関節窩、関節頭共に骨の輪郭がはっきりし、骨の添加が認められる
「噛み合わせ」はすべての歯の治療に通じる問題です。当院での歯の治療は、顎関節の雑音や痛み、歯ぎしり癖、食いしばり、開口障害などの症状がある場合は、根本の噛み合わせを正常な位置にリセットすることから始めます。いきなり歯を削るのではなく、まずは取り外し可能なマウスピースで精密な噛み合わせの調整を行います。咀嚼(そしゃく)や顎の動きに対する違和感の自覚の有無にかかわらず、歯科治療の際にまずは顎関節の治療をすることが重要なのです。
顎関節の雑音や痛み、歯ぎしり癖、食いしばり、開口障害などの症状がある場合の初診時の診査・診断と治療の流れについて
①レントゲン検査
お口まわりをパノラマレントゲンや歯科用CT撮影で撮影します。特に、開口時に顎関節がカクカクと音がする、痛みがある、口が少ししか開かないといった場合には、歯科用CTでの撮影が必須です。
②顎関節の変形やズレなどをCTにより詳しく説明
様々な検査結果より、現在の症状が起こる原因と進行状態などを丁寧にご説明します。患者様ご自身が原因をしっかり把握することで、治療内容への理解が深まり治療がスムーズに進みます。 直接歯牙の切削や補綴物を外すことなくバイトプレートで全体の歯牙の接触と、左右の噛み合わせのバランスを整えることによって、関節や首にかかる負担を減らせます。
③上下歯牙の咬合接触状態の検査
上下左右の臼歯部(奥歯)がバランスよく適切に接触しているかどうかを調べ、咬合異常の状態や度合いを把握します。
④ご自身でできる「咬み締め予防法」を指導
日中、無意識にしている咬み締め行為を防ぐために、認知行動療法やご自宅などでできる顎のストレッチ運動などを指導します。
バイトプレート療法と顎のストレッチを併用することで筋肉の緊張を和らげます。
⑤バイトプレート療法
歯を削らずに、筋肉や関節、又は頚椎にかかる負担を減らし、症状を軽減させるためにバイトプレートを使って精密な調整を行います。
※バイトプレートによる噛み合わせ治療は非常に重要であり、これを怠ると治りません。歯の治療前に必ず顎関節の機能を正すことが肝心です。
正しい噛み合わせとは?
左右両側の顎関節、臼歯、前歯がすべてバランスよく嵌合(かんごう)している(かみ合っている)状態。一箇所のバランスが悪いと、他の部分に負担がかかり、症状が発症しやすくなる。特に噛み合わせのバランスが悪い状態で過度の食いしばり(筋肉の過緊張)が加わることによって、関節の変形をきたす場合もあります。
毎日何気なくものを食べたり、緊張時に食いしばったりしている歯は、土台となる骨や関節、神経や周辺の筋肉につながっています。また、咬んだときに発生する刺激は脳へと伝わり、さらに各器官へと色々な指示を送ります。
昼間または睡眠中に、非常に強い力で噛みしめる癖を持っている場合は、特に病状がきつくなる場合があります。その為に左右の大臼歯部の接触のバランスが重要になります。
噛み合わせのバランスが悪いことで頭痛や関節痛、開口障害などの症状を引き起こす場合があります(咬合力381.0N)
数回の微少な咬合調整により、左右のバランスが取れた状態です(咬合力538.5N)
左右の歯牙接触が対称的になっているかどうか咬筋筋電図検査を行った
治療前
左に早期接触があるため、左側咬筋の噛み締め時のピークが、右側咬筋の倍程度活動していることが分かります。
治療後
咬筋筋電図波形のタッピング時、噛み締め時のピークが、左右同じように活動していることが分かります。
なるべく左右が対称的に、特に大臼歯部において「噛む力を受け止めれる」ような噛み合わせが非常に重要になります。
64歳 男性
左右咬筋、側頭筋圧痛
右関節雑音
食事中のR-TMJ 自発痛
53歳 女性
昼間の食い縛りの悪習癖
バイトプレート(マウスピース)を夜間装着
昼間の食事以外、上下の歯牙を接触しないように指示。
下顎のストレッチ運動 朝晩20回。
74歳 女性
リウマチで両膝の人工関節置換術の既往
開口時左右TMJ雑音
左右咬筋、側頭筋 圧痛
夜間のバイトプレート(マウスピース)装着
下顎運動のストレッチ
部位別の正しい噛み合わせ
左右の関節窩(かんせつか:関節の空洞の部分)の中央に関節頭が位置し、関節頭の周囲に均一なスペースがある状態。
例えば、片側または両側の大臼歯の欠損(抜歯)が生じると、下顎位(下顎の位置)の保持ができなくなり、そのことによって下顎がずれを起こし関節のずれにつながる。そうすると、関節雑音、関節炎、しいては関節頭の骨の変形を生じる場合もある。
左図のように、上下左右第一大臼歯が嵌合(かんごう)し、内外側前後方向に歯牙(歯)がずれることなく、上下の歯軸(歯の中心線)が平衡関係にあること。
そのことにより強いかみしめが起こっても、下顎がずれることなく左右上下の臼歯の嵌合(かんごう)によって下顎の位置を保持し、前歯と関節を保護する。
片側大臼歯が上顎2本下顎2本で、計4本、左右で合計8本ある。その8本によって下顎位が保持される。左右の臼歯が均等な強さで接触し咬合力を分散する。
上顎前歯が、下顎前歯を被蓋(ひがい)し(被い)、上下大臼歯が嵌合(かんごう)した(咬頭嵌合位[こうとうかんごうい])位置で下顎の前歯の切端が上顎前歯の舌側面にかすかにあたる。
食物を咬みきる場合には、下顎が前下方にスライドし、上下の切端と切端が合わさった位置でものを咬みきる。そのときは、左右臼歯は離開(りかい)する(離れて間が開く)。
なお左の写真のように被蓋がない場合に、歯ぎしりが起きると下顎が水平にスライドし、左右の奥歯がひっかかり、筋肉や関節、頸椎などに大きな負担がかかってしまう。結果、関節の変形や頸椎の並びの異常などにつながり、影響して重い症状が出ることがある。
トライポダイゼーション
上下第一大臼歯の咬頭嵌合位(こうとうかんごうい)(かみしめ位)の接触ポイントをあらわします。
上顎大臼歯の舌側咬頭(咬んだときにあたる点)が下顎大臼歯の咬合面の小窩裂溝(しょうかれっこう:歯の溝)にかみこみ、下顎大臼歯も頬側咬頭(きょうそくこうとう)が上顎大臼歯の咬合面の小窩裂溝(しょうかれっこう)にかみこむ。
また、ひとつの咬頭が3点で接触することにより、非常に安定したストップ(バーティカルストップ)を得ることができる。このことにより、下顎の位置をより安定させる。ただし、左右前方位に下顎が動いたときは、前歯、小臼歯部が下顎を誘導し、大臼歯は離解して干渉しない。そのようなバランスになってることによって、関節や筋肉への負担がかからないようになります。
噛み合わせの影響とは?
正しい噛み合わせでものを噛んでいれば、これらの働きは正しく起こりますが、噛み合わせが悪い上に極度の食いしばりが重なった場合さまざまな悪影響をおよぼします。
そのため、正しい噛み合わせを維持することは、全身の健康維持の重要なポイントの一つと言えます。左右の大臼歯でしっかり噛めることが非常に重要になってきます。
すべての歯科治療と密接に関わる「噛み合わせ」
「噛み合わせの治療」と言うと特別な治療のように聞こえますが、噛み合わせの問題(症状)は、違和感などの自覚のある・なしにかかわらず、あらゆる歯科治療の際に必ず考慮しなければならない問題なのです。
虫歯治療でもインプラント治療でも
多くの方が経験していらっしゃる虫歯の治療から、歯が欠けてしまったときの修復治療、歯を失ったときの入れ歯やインプラント治療まで、もともとの噛み合わせのバランスを変える可能性がある治療には、すべて関係しているのです。この点に十分に注意して歯科治療を行わないと、逆に噛み合わせが悪くなってしまい、健康を損なってしまう可能性があります。
それぞれの治療について詳しくご説明する前に、「正しい噛み合わせ」とはどういうことなのかをご説明します。噛み合わせのメカニズムと、噛み合わせを安定させるために必要な治療について知っていただくためです。
部分的に歯が欠損し、義歯やブリッジが入っている場合は噛み合わせが不安定になります。そこで、全体の噛み合わせを安定させる咬合保持部を新たに作るためにインプラント治療が非常に有効になってきます。こういった治療と噛み合わせの関係性をお話しします。
噛み合わせの影響の大きさ
なくなった歯は1本だけだから大丈夫だろう……と思っていませんか? その1本が、実は大変な1本かもしれません。
噛み合わせのバランスを考えるにあたって、歯列の平衡状態を上下4つのブロックに分ける考えるとわかりやすいでしょう。左の図1のように4箇所の臼歯群によって中心咬合位は保持されています。
- 左側小臼歯群
- 右側小臼歯群
- 左側大臼歯群
- 右側大臼歯群
そのため、そこに咬合障害があると機能的に平衡状態を妨害する原因になります。
ただし、歯列の支持機能にとっては、歯列の4箇所の咬合支持域に図2のよう に明確に定まった咬合接触が存在していれば、その歯列が完全であるか、あるいは歯牙欠損があるか否かは大きな問題ではなくなります。
つまり、噛み合わせバランスにおいて、多くの歯牙欠損があったとしても、この4箇所の咬合支持域において安定したかみ合わせができていれば、バランスは保持されていることになります。
逆に歯牙欠損が1本のみであったとしても、この4箇所の支持域において安定したかみ合わせが成り立たず、且つ、異常な噛み合わせがそこに加わると重大な問題となりうるのです。
次に、各歯列群が噛みしめの際、どのくらいの負荷を負っているかを見てみましょう。
図3は正常有歯顎者で測定した噛みしめ時の各歯における咬合力分布(%)の図です。咬合力分布(%)は、グラフが示すように後方歯群ほど大きくなります。
第一大臼歯は片側で約14%、両側で約28%、第二臼歯は片側で約27%、両側で54%の咬合力を負担しています。したがって、第一大臼歯および第二大臼歯を失うと、欠損に隣接する歯に多大な負荷がかかることがわかります。
例えば、4箇所のブロック(咬合支持域)のうち左側大臼歯群において、歯の欠損で保持されていない場合、歯列に加わる力のバランスが崩れ、ゆがみが生じてきます。その影響でさまざまな弊害が生じます。
例えば、左右の噛み合わせのバランスが崩れて、そこに筋肉の異常な緊張が起こった場合、顎の咬み位置がずれたり、しいては顔が歪んだりすることがあります。また、異常な筋肉の緊張によって血液の圧迫などが起こり、肩こりや頭痛、めまいを引き起こすことも考えられるのです。1本の歯は人間一人の体の中ではとても小さな部分ですが、その1本の欠損が一人の人間の健康に想像以上の影響を与える要因ともなりえるのです。
噛み合わせ治療の目標
①左右の関節窩(かんせつか)の中央に関節頭が位置し、②左右上下の臼歯の嵌合(かんごう)によって下顎の位置を保持、また上顎前歯が下顎前歯に被さって、食物を咬みきるときに下顎が前下方にスライドして、③左右臼歯が離開することを目標としています。
バランスをとれない歯並びになっている場合、矯正専門医に紹介する場合もあります。
矯正治療中も治療後も、顎の機能を正常に戻して健康に導けるよう当院と矯正専門医の二人三脚でサポートします。
人と話をしたり、笑ったりしたときに、相手に直接見える歯の色に、非常に神経質になったことはありませんか? 前歯だけではなく、見えない部分の大臼歯(奥歯)の治療にも注意する必要があります。
直接見える部分の治療 | 直接見えない部分の治療 |
---|---|
脳血流量の増大 |
脳血流量の増大 |
他の部位の治療も同じことが言えるのですが、う蝕(虫歯)の部分を削除し、一般的には銀合金・ゴールド・セラミック・コンポジットレジンなどを使って、修復処置が行われます。
しかし噛みしめや歯ぎしりを持った人の場合は特に天然歯、金属、コンポジットなどは非常に摩耗が激しい為、最近開発された強度のあるセラミックを使って、修復処置を行う傾向が多くなっています。将来的に、正常な噛み合わせのバランスを維持していくためには、治療する範囲を考慮した材料を選択し、定期的なメンテナンスが必要不可欠になってくるのです。